米国「関税ラッシュ」で日本車の未来は?USMCAのルールと例外が変える自動車輸出戦争
カナダと米国が「輸入品に関税をかけない」という協約として長年運用してきたのは、**「北米自由貿易協定(NAFTA)」およびその後継協定である「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」**です。その内容を分かりやすく説明します。
協定の名称と基本ルール
1. NAFTA(北米自由貿易協定):1994年発効~2019年
2. USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定):2020年7月発効~現在
- NAFTA後継協定であり、名称(アメリカではUSMCA、カナダではCUSMA)や一部ルールが改定。
- 品目によってはルール厳格化(自動車の場合は“域内部品比率”引き上げや最低賃金規定など)。
- 原産地規則を満たした物品については**引き続き「関税ゼロ」**が適用。
2025年トランプ大統領の高関税ラッシュとその変化
2025年、トランプ大統領は再任後間もなく追加関税を連発しました。その際の主な動きとUSMCAの効力変遷は次の通りです。
【主な関税発動の流れ】
- USMCA「関税ゼロ」の大原則は維持されているが、米国側の追加措置として**「USMCA非適合品」「特定戦略品」には高関税適用**へ拡大。
- カナダも報復として、米国からの農産品や自動車などに最大25%の関税を対抗的に課す対応を実施。
- 一部、米国発表の「制裁関税」でもUSMCAルール適合なら短期間免除されるケースあり。だが関税の“例外措置”や“適用範囲の複雑化”が急速に進んでいるのが現状です。
まとめ:2025年以降の米加間協定の運用変遷と今後
- 従来(~2024):USMCAの原産地規則さえ満たせば、関税ゼロの自由貿易が原則
- 2025年以降:米国による追加関税(IEEPA・セクション232等)の頻発で、「原則ゼロ・例外の高関税」が同時進行
- USMCAは依然有効だが、対象外品・戦略品・非適合品には高関税リスク
- 両国とも「報復関税→一部免除→協議→再度課税」と流動的な運用に
- 今後は、自由貿易体制の部分的弱体化/産業ごとの競争環境大変動が予想され、両国企業は「ルールと例外」の見極めと対応がより複雑になっています。
主な協定名:
現行ルール(2025年):
- USMCA原産地規則を満たす品目は関税ゼロ
- しかし米国がIEEPAやセクション232等の緊急措置を随時適用、例外品には高関税
- カナダは報復措置として米製品に最大25%関税
- 両国間の関税運用は、例外が急増し、大幅に流動化
企業や関係者は、USMCA対象かどうか・最新関税リストの確認が必須な状況です。
USMCA原産地規則 とは具体的にどのようなものに変わってきたのか
USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の自動車に関する原産地規則は、従来のNAFTAから大幅に厳格化されています。特にここ数年で、米国主導の方針も受けて運用実態や解釈も再度注目されています。
主なポイント:USMCA原産地規則の具体的変更点
- 域内原産割合(Regional Value Content: RVC)の大幅引き上げ
- 部品原産地規則の厳格化
- 高賃金労働要件の新設
- 従来方式の廃止・簡素化
- 適用できない場合は関税負担
2025年以降の運用・変化の流れ
- 近年の米国関税政策強化を受け、USMCA原産地規則適合車のみが“関税ゼロ”を維持できる一方、ルール非適合品や一部戦略品には25~35%の追加関税が発動される状況になっています。
- サプライチェーンや生産体制の見直しを余儀なくされることから、特に日系メーカーはパーツ輸入・現地生産比率の再調整・更なる域内化を加速する動きが出ています。
まとめ:USMCA原産地規則の進化とは
- 以前よりも**「域内(米・加・墨)で完成車や主要部品、素材の“75%以上”が作られていなければ関税ゼロ特典を得られない」という厳しい内容**に変わりました。
- さらに、「高賃金生産」「鉄鋼・アルミの域内調達」など現代的な要素も追加されています。
- 米国の追加関税政策の下では、「USMCA規則を守る」こと自体が北米ビジネス存続の生命線となっています。
USMCA原産地規則遵守が厳しくなっている中、GM FORDはなぜに工場を米国外に移転しようとする??
原材料や重要部品の「完全な現地調達」が不可能であれば、USMCA原産地規則を利用した“関税ゼロ”の恩恵は理論上得られません。それでもGMやフォード、ステランティスがカナダに工場を新設・移転・拡大するのは、いくつか実利的な理由と戦略的背景があります。
なぜGM・フォードはカナダへ工場シフトを進めるのか?
1. 米国高関税リスクの分散・回避
- 2025年、トランプ大統領による**大幅な関税引き上げ(25〜35%)**が発動し、「米国国内生産またはUSMCA準拠品以外は高関税」という環境になりました。
- カナダに生産拠点を持つことで、USMCAルール(原産地規則)を一部でも満たしていれば、関税回避の“抜け道”が維持できる可能性があります(特に付加価値や工程の一部をカナダで確保すれば部分適用が可能)。
2. カナダ政府・州政府の手厚い補助金・優遇策
- カナダ政府は雇用と国内産業維持のため、工場建設や設備投資に大規模な補助金・税制優遇を用意しています。
- 関税リスクだけでなく、コスト面や研究開発環境も米国以上に有利なケースが多い。
3. 資源とインフラの優位性—とくにEV関連
- カナダはアルミ・鉄鋼・バッテリーメタル等の資源供給が域内で可能な数少ない先進国。EV化の加速、バッテリー工場併設などに最適です。
- グリーン電力やクリーンテクノロジー、AI・自動運転等のR&D人材も集めやすく“次世代モビリティ”投資に向いている。
4. カナダ市場の重視と米国依存からの分散
- カナダではGM・フォードのブランド力が強く、現地生産・雇用維持が消費者や政府に歓迎される傾向。
- 米国市場向け輸出が難しくなったときに備え、「カナダ・南米・欧州」向け生産の起点・分散拠点として機能させる狙いもあります。
5. USMCA緩和措置や特例規定、将来への布石
- USMCAには一部の猶予・緩和や例外規定(経過措置も含む)が存在し、完全適合できなくても、「できる部分だけカナダ原産化」することで関税恩恵の一部が得られる場合もある。
- 将来的なサプライチェーン強化(鉄鋼やアルミの域内化の一層の推進)の布石として、ポジション確保を急いでいる面も強いです。
現状の現地調達困難と企業戦略の現実
- 実際、**GMやフォードも工場の一時停止・生産縮小・調整(レイオフやシフト削減含む)を断続的に発表しており、「工場は移すがフル稼働は難しい・試行錯誤が続く」**のが今の現実です。
- カナダでのEV化投資が遅延・延期となる例も顕著で、市場要因や世界的コスト増加の影響も重なっています。
まとめ
**カナダでの工場移転・新設は、「米国一極依存に伴う関税リスクの分散」「カナダ政府の支援獲得」「EVシフト+資源調達戦略の布石」**という複合動機によるものです。
理論上、“完全原産地規則”の厳格化で関税ゼロが難しくても、「部分適用でのリスクヘッジ」「将来的なフル域内供給網形成への布石」として、グローバル企業はカナダ拠点を維持・強化し続けているのが現実です。
「すぐに100%現地原産は無理」でも、中長期的なポジション取りと政府支援、そして最悪のシナリオへの保険――これがGMやフォードの工場移転の最大の理由と言えるでしょう。
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