循環棚卸の監査で指摘される理由とは?
|監査基準・チェック項目と現場で多いNG例を解説
循環棚卸を導入しているのに、
「監査でどう評価されるのか分からない」
「ちゃんとやっているはずなのに指摘される」
と感じたことはありませんか?
循環棚卸は、現場改善に有効な一方で、
監査目線では“見られるポイント”がまったく異なります。
この記事では、
循環棚卸が監査でどう位置づけられるのか、
どこがチェックされ、
どんな点が指摘されやすいのかを
実務目線でやさしく整理します。
「正確さ」よりも
説明できる仕組みが求められる理由を理解すれば、
現場も監査も無理なく両立できます。
H2-1|循環棚卸は監査でどう位置づけられるのか
循環棚卸は、
「棚卸作業をラクにする方法」
として語られることが多いですが、監査の視点では少し見方が違います。
監査が見ているのは
棚卸をやっているかどうか
ではなく、
在庫が“継続的に正しく管理されているか”
という点です。
そのため、循環棚卸は
年次棚卸の代わりというより、
👉 年次棚卸を支える日常管理の仕組み
として位置づけられます。
H3-1|年次棚卸との違いと監査の考え方
年次棚卸は、
決算や会計処理のために行う 「一発勝負の棚卸」 です。
- 年に1回(または数回)
- 全在庫を一斉に数える
- 数字を帳簿に合わせることが目的
一方、循環棚卸は
日々の業務の中で在庫を少しずつ確認し、
ズレを早期に見つけて修正する運用です。
監査の立場から見ると、
- 年次棚卸
→ 最終結果の確認 - 循環棚卸
→ そこに至るまでの管理プロセス
という役割分担になります。
つまり監査では、
「年次棚卸で数字が合っているか」だけでなく、
そこに至るまで、どんな管理をしてきたか が問われます。
循環棚卸は、
その説明材料として非常に重要な位置づけになります。
H3-2|「循環棚卸をやっているだけ」では不十分な理由
ここで多い誤解が、
「循環棚卸をやっています」
と言えば、監査は問題ない
という考え方です。
実際には、
“やっている”だけでは評価されません。
監査で見られるのは、
- どの範囲を
- どの頻度で
- 誰が
- どんなルールで
- 差異が出たらどう対応しているか
といった 運用の中身 です。
例えば、
- 担当者ごとにやり方が違う
- 記録が残っていない
- 差異が出ても理由を追っていない
こうした状態では、
循環棚卸をしていても
「管理として不十分」と判断される可能性があります。
逆に言えば、
完璧に数値が一致していなくても、
- 差異が把握されている
- 原因が説明できる
- 再発防止策が考えられている
この状態であれば、
監査上はむしろ評価されやすくなります。
循環棚卸は、
「やること」よりも
「説明できる仕組みになっているか」 が重要です。
H2-2|循環棚卸で監査がチェックする主なポイント
監査では、
「循環棚卸を導入しているか」よりも、
どのようなルールで運用されているか が重視されます。
ここでは、
循環棚卸に関して 実務でよくチェックされるポイント を
2つに絞って整理します。
H3-1|棚卸ルール・頻度・対象範囲は明確か
まず最初に確認されるのが、
循環棚卸のルールが明文化されているか です。
具体的には、次のような点です。
- どの商品を循環棚卸の対象にしているか
- どの頻度で棚卸を行っているか(毎日/毎週/毎月など)
- 誰が担当するのか
- 棚卸の手順は決まっているか
これらが
「担当者の経験や勘」に任されている場合、
監査上は 属人化リスクが高い運用 と見なされます。
逆に、
- 対象範囲が決まっている
- 頻度が一定
- 手順が簡単でも文書化されている
この状態であれば、
循環棚卸として十分に評価されます。
重要なのは、
完璧なルールかどうかではなく、誰が見ても同じ運用ができるか
という点です。
H3-2|差異が出たときの対応・記録が残っているか
次にチェックされるのが、
棚卸差異が出たときの対応と記録 です。
監査では、
「差異が出た=問題」
と判断されることは、実は多くありません。
それよりも、
- 差異を把握できているか
- 原因を考えた形跡があるか
- 修正や再発防止につながっているか
こうした プロセスの有無 が見られます。
例えば、
- 差異が出た日付
- 商品名・数量
- 想定される原因
- 対応内容(修正・確認・是正など)
これらが簡単でも記録されていれば、
監査上は「管理されている」と判断されやすくなります。
反対に、
- 差異が出てもその場で数値だけ合わせる
- 記録が一切残っていない
この状態は、
循環棚卸を行っていても
評価が下がる要因 になります。
循環棚卸では、
差異をなくすことよりも、
差異を“説明できる状態”にしておくこと が重要です。
H2-3|監査で指摘されやすい循環棚卸のNGパターン
循環棚卸を導入していても、
運用の仕方によっては 監査でマイナス評価 になることがあります。
ここでは、
実務上 特に指摘されやすい2つのNGパターン を整理します。
H3-1|人によってやり方が違う・属人化している
循環棚卸で最も多い指摘が、
「人によってやり方が違う」状態 です。
例えば、
- Aさんは数量だけ確認
- Bさんは場所もチェック
- Cさんは差異が出たら黙って修正
このように、
担当者ごとに判断や手順が違う場合、
監査では 統制が取れていない運用 と見なされます。
現場としては、
- 忙しいから各自に任せている
- 長年の経験があるから問題ない
という感覚でも、
監査視点では
「再現性がない」「引き継げない」
という評価になりがちです。
循環棚卸では、
- 手順が完璧でなくてもよい
- 多少簡略化されていてもよい
その代わり、
誰がやっても同じ流れになること が重要です。
最低限、
- 棚卸の手順
- 差異が出たときの対応
この2点だけでも共通ルールとして決めておくことで、
属人化リスクは大きく下げられます。
H3-2|記録が曖昧で「なぜズレたか」を説明できない
もう一つ、
監査でよく指摘されるのが
記録が曖昧な循環棚卸 です。
よくある例として、
- 差異が出たが、理由が書いていない
- 数字だけ修正して終わっている
- いつ・誰が確認したのか分からない
この状態では、
監査で
「なぜこの差異が発生したのか?」
と聞かれたときに説明ができません。
監査では、
- 差異が出たこと自体
よりも - 差異にどう向き合っているか
が評価されます。
たとえ原因が特定できなくても、
- 入出庫の記録漏れの可能性
- ピッキングミスの可能性
など、
考えた形跡が記録として残っているか が重要です。
循環棚卸は、
「ズレをゼロにする仕組み」ではなく、
ズレを管理し、説明できる状態を作る仕組み です。
この視点を持っておくだけで、
監査での評価は大きく変わります。
H2-4|監査対応で重要なのは「正確さ」より「説明できる仕組み」
循環棚卸というと、
「とにかく在庫を正確に合わせなければならない」
と考えがちです。
しかし、監査の視点では
一時点での正確さ よりも、
管理の考え方と仕組み が重視されます。
多少の差異が出ること自体は、
現実の在庫管理では珍しくありません。
重要なのは、
- なぜ差異が起きたのか
- 起きた差異にどう対応しているのか
を、
第三者に説明できる状態かどうか です。
循環棚卸は、
「完璧な一致」を目指すための作業ではなく、
在庫を管理していると言える状態を作るための仕組み
として捉える必要があります。
H3-1|全数一致よりも重視される管理プロセス
監査で確認されるのは、
「棚卸結果が100%合っているか」
ではありません。
それよりも、
- 棚卸の頻度は決まっているか
- 対象範囲は明確か
- 差異が出たときの対応ルールはあるか
といった
プロセスの有無と一貫性 が見られます。
仮に、
- 年1回の全数棚卸で帳尻を合わせている
- 途中のズレは放置している
という運用であれば、
一時的に数字が合っていても、
管理体制としては弱い評価になります。
一方で、
- 循環棚卸を定期的に実施している
- 差異が出たら記録し、理由を残している
- 改善の形跡が見える
このような運用であれば、
多少のズレがあっても
管理が機能している と判断されやすくなります。
監査は「結果」よりも
過程を評価するもの だという点が重要です。
H3-2|再発防止につながる棚卸運用とは
監査対応として評価される循環棚卸は、
「数を合わせて終わり」ではありません。
差異が出たあとに、
- なぜ起きたのか
- 次はどう防ぐのか
を考え、
次の運用に反映されているか が問われます。
例えば、
- ピッキングミスが多い → 棚番表示を見直す
- 入力漏れが多い → 入出庫記録のタイミングを変更
- 特定商品だけズレる → 管理単位(SKU・ロット)を見直す
このように、
循環棚卸を「気づきの場」として使えているかが重要です。
再発防止までつながっていれば、
循環棚卸は単なる作業ではなく、
内部統制の一部 として機能します。
結果として、
- 監査対応が楽になる
- 指摘事項が減る
- 年次棚卸の負担も軽くなる
という好循環が生まれます。
在庫管理の問題は「やり方」だけで解決できるものではありません。
SKU・JAN・在庫数・Excel管理などはすべて、在庫管理という仕組みの一部にすぎません。
個別対策を積み重ねる前に、まずは全体の考え方と構造を整理することが重要です。
👉 在庫管理の全体像と考え方を整理する
H2-5|まとめ|循環棚卸は「現場改善」と「監査対応」を切り分けて考える
循環棚卸は、
現場を楽にするための手法 であると同時に、
監査対応の土台にもなる仕組み です。
ただし、この2つを
同じ目的・同じ基準で考えてしまうと、
運用が苦しくなります。
現場改善と監査対応は、
重なっているが、完全に同じものではありません。
循環棚卸を正しく活かすためには、
この切り分けを意識することが重要です。
H3-1|まず理解すべき循環棚卸の基本と限界
循環棚卸でできることは、
「在庫を常に完璧に一致させること」ではありません。
本来の役割は、
- 在庫ズレに早く気づく
- 問題が起きる場所・工程を特定する
- 改善を積み重ねる
という 管理の質を高めること にあります。
そのため、
- 一時的な差異が出る
- 全数一致しないことがある
のは、必ずしも失敗ではありません。
重要なのは、
- ルールがあるか
- 記録が残っているか
- 説明できるか
この3点が揃っていることです。
循環棚卸は
「万能な正解」ではなく、
使い方を間違えなければ強力な道具
だと理解しておく必要があります。
H3-2|次に読むべき在庫管理・棚卸改善記事の案内
この記事では、
循環棚卸を 監査目線 で整理しました。
次のステップとしては、
以下のようなテーマを読むことで理解が深まります。
- 循環棚卸の具体的なやり方・回し方
- 棚卸が合わない原因と現場での対処法
- 棚卸差異をどう評価・許容するか
- 棚番・ロケーション管理によるズレ防止
これらを順に理解していくことで、
- 現場で回る棚卸
- 説明できる在庫管理
- 指摘されにくい運用
がつながっていきます。
循環棚卸は
単体で完成するものではありません。
在庫管理全体の中で位置づけ、
一つずつ改善を積み重ねていくことが、
結果として
「現場も監査もラクになる在庫管理」
につながります。
👤 筆者プロフィール|DXジュン(Apice Technology 代表)
「tecn」を運営している DXジュン です。
Apice Technology株式会社の代表として、20年以上にわたり
Web制作・業務改善DX・クラウドシステム開発に携わっています。
普段は企業の現場課題に寄り添いながら、
在庫管理システム/予約システム/求人管理/受発注システム/クラウドソーシング など、
中小企業の仕事を“ラクにするツール”を作っています。
tecn では、業務改善のリアルや、Webシステムの仕組み、 そして「技術が生活をちょっと楽しくしてくれる」ような 日常×デジタルのヒントをゆるく発信しています。
現在の注力テーマは 在庫管理のDX化。 SKU・JAN・棚卸・リアルタイム連携など、 現場で役立つ情報を発信しつつ、 自社のクラウド在庫管理システムも開発・提供しています。
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